最初にはっきりさせておきます。
現在すでに、「PCを買うなら新品にかぎる」という時代は終わっています。
一昔前まではたしかにそういう時代でした。ですから今でも、「リユースPC(中古・再生PC)を買おうと思っている」と知人に相談すると、反対されることもあります。しかし今はすでに、新製品が「たいしたことない」時代に入っています。
「ムーアの法則」の終焉
ご存知の方も多いでしょうが、コンピュータ・サイエンスの領域の言葉に「ムーアの法則」というものがあります。インテルの創立者のひとりであるゴードン・ムーアが1965年に示した見解で、
「
集積回路上のトランジスタの数は18ヶ月で2倍になる」
とするものです。
これが示す意味はふたつあります。
- 数値演算処理、論理演算処理のスイッチとなるトランジスタが2倍になるということは、処理能力が2倍になる。
- 同じ面積の集積回路上に2倍のトランジスタを実装できるということは、性能が同じ集積回路を2枚作れるので、コストが半分になる。
つまり、コンピュータの処理速度は加速度的に向上し、しかも同時に、コンピュータの値段は安くなっていく……ということです。
歴史を振り返ってみると、それは実際にそうなってきています。コンピュータの処理速度だけでなく、メモリーやハードディスクの容量についても、ほぼ同じように「ムーアの法則」が成り立っています。1980年代のTRS-80やNECのPC-8001の時代からPCに触っている身として、そのことは本当に実感しています。
さてこの「ムーアの法則」は、裏返してみると、新品のPCが(PCだけでなく周辺機器も)、ほんの数年で見る影もなく完膚なきまでに陳腐化してしまう、ということを意味します。「18ヶ月」、つまり1.5年前に発売されたマシンは今の半分の能力、3年前のマシンなら4分の1です。
こんな状況では、誰もリユースPCを買おうなどとは思わないでしょう。
そして、上記のような「知人」は、そのようなイメージを心の奥底に持っているのです。「リユースPCを買おうと思うんだけど」と相談を持ちかける相手となれば、それなりにコンピュータとの関わりが長い人でしょう。コンピュータの歴史をよく知っている人ほど、「PCは少しでも古かったら、もう全然ダメ」という印象を持っているはずです。
ところが……
ゴードン・ムーア自身が、2005年4月にこう発言しているのです。
「
ムーアの法則はそう長くは続かないだろう」と。
性能向上速度の減速・頭打ちへ
実際問題として、集積回路の集積密度の向上は、そろそろ物理的な限界に来ています。現在の半導体加工技術は10nm(10ナノメートル・1億分の1メートル)の世界にいどんでおり、トランジスタのサイズは原子サイズに迫っています。絶縁層の厚さが原子サイズにちかくなると、量子トンネル効果があらわれて電子が浸みだし、絶縁が成り立たなくなります。こうなると半導体はつくれません。今以上にサイズを小さくすることができないのです。もう頭打ちは目前なのです。
そのため、近年は集積密度を上げる方向ではなく、CPUの役割を果たす「コア」の数を増やす方向で処理速度を上げようとする方向が主流になっています。デュアルコア(×2)、クアッドコア(×4)、オクタコア(×8)、ヘキサコア(×16)……などといった具合です。
しかしこうした方向でも、コアの数を増やせば増やすほど相互の連携を保証する仕組みの設計がむずかしくなります。かなり無理なアーキテクチャになっていきます。2017年末にPezy Computingの斎藤元章氏が詐欺で逮捕・起訴されましたが、彼はなんと「1024コア」のメインチップを有するスーパーコンピュータを提案していました。2018年5月の初公判で斎藤被告は、詐欺の起訴事実をみずから認めていますから、「できるはずがないと知っていて作ると言い、補助金をだましとった」わけです。詐欺は「だます意志」の立証がむずかしく、「造れるはずだったが、事情があってできなかった」と言い抜ける道筋もないではありません。しかし、斎藤被告は詐欺を認めている。ということは、1024コアなんて造れるはずがないと認識していたのです。
現実は「シグモイド曲線」
もうひとつ言い添えれば、コアの数が倍になったところで、処理速度が単純に2倍になるわけではありません。せいぜい1.5倍がいいところでしょう。
ということで、コンピュータの処理速度の加速度的向上も、そろそろ終わります。「ムーアの法則」のイメージだと、その向上は指数曲線的で、どんどん垂直に近づき、宇宙にまで飛び出していきそうな勢いです。
しかし実際には、ある程度向上したところで減速を始め、頭打ちになっていきます。現実的なイメージは、シグモイド曲線です。
そして、一般向けPCの市場では、すでにこの減速は始まっています。今現在の段階ですでに、今の新製品と、5年前のPCとで、さほど大きなちがいは体感できないはずです。「ムーアの法則」通りなら、5年前のマシンなら8分の1以下の速度でなければなりませんが、そこまで遅くはないのです。半分ですらないでしょう。
インテルやAMDのようなCPUのメーカー、あるいはPCのメーカーは口が裂けても認めないでしょう。人々に、上のグラフの赤い線の方で未来の幻想を持ってもらわないと、商売上不利になるからです。しかし、「ムーアの法則」は終わっています。
また、大手のPCメーカーは、なかば義務のように毎年毎年のペースで新製品を発表します。それを見て、「必死だなあ」と感じたことはありませんか?
実際、必死なのだと思います。半年前、1年前、いや2年前のモデルと比較しても、基本性能の部分では何一つ飛躍はないのに、なんとか無理やりにでも新しい要素を付け加えて「新製品!ここが新しい!」とアピールしなければならない。新製品のために、半年ごとに設備投資もしなければならず、広告宣伝費もかけなければならない。それである程度売れたとしても、経費が高くついているので利益は少ない……。
よく続けていられるものだと思います。本音を言えばやめたいのではないでしょうか。というか実際に、一般向けPCから撤退するメーカーも続々と出ています。
それに、決して効率的とは言えないこんな商売をしていたのでは、「ムーアの法則」のもうひとつの意味である「PCはだんだん安くなる」という作用が働きにくくなってしまいます。高い新製品のPCは、いつまで経っても高いまま、ということに。これも事実、そうなっています。
これが現在のPC業界の状況です。
「半年ごとに、たいした性能向上もなく、たいした新規性もない新製品を生み出し、高く売りつけようとしている」というのが現状なのです。
つまり、「PCは少しでも古かったら、もう全然ダメ」という状況は、いまや決定的に変わったということです。
言い換えれば、「多少古いPCでも、使用目的にかなうスペックがあり、安く買えるならば、購入する意義は十二分にある」ということでもあります。
時代は変わりました。
いまや賢いユーザーは、リユースPCを積極的に活用すべきなのです。もちろん、高密度・大容量の動画データを編集して作品を仕上げるなど、PCに非常に高い性能が要求される作業もあることはあります。しかし、この世でPCを使ってたずさわる作業の多くは、インテルのプロセッサーで言えば Core-i3、あるいはせいぜい Core-i5くらいあれば十分こなせます。ほとんどの用途でリユースPCは必要かつ十分、そして安価です。すぐれたコストパフォーマンスを示します。新製品を高値づかみするのは、いまや賢い選択ではありません。
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